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  5. 第91回 命の預かり主

柴内先生の にゃるほど犬猫塾

犬や猫たちの暮らしやしつけ、健康などについてご紹介します。

no.91

犬や猫の安全と危険回避アイデア

命の預かり主

新しい年が明け、1ヵ月以上が経過しました。今年は元旦から大きな災害、事故などが相次ぎ、心安まらない年の初めとなりましたが、皆様はお心強くお健やかに過ごせていらっしゃるでしょうか?

令和6年能登半島地震の折には私は東京で運転をしており、急に鳴り響いた携帯の警報音で状況を知りました。縁者も能登半島におりましたが、地域的に断水もなく、大きな問題はありませんでした。しかし、以前尋ねた様々な地が大きく様変わりしている状況を報道画面を通して心痛く眺めました。この数十年で災害があったときに報道されていたあらゆる場面が再び毎日の様に流れていました。津波、家屋倒壊、土砂崩れ、避難生活、命がけの救助、追い打ちをかけるような悪天候(今回は大雨、降雪など)の中で生活を送る避難された方々の様子。今回の地震では2次避難の様子も取り上げられていました。被災した上に過酷な環境の中で暮らし続けるよりも、移動が可能であれば人命のためにも移動することは有益であると思います。動物の姿は1度だけ痩せ細った犬が画面を横切ったのを見ました。そして災害救助犬達の頼もしい姿も…一人でも多くの方の場所を示してくれることを信じ祈りました。

多くの動物たちも被災し、家族や家をなくしたことでしょう。ある協会の要請で私共も即時必要な物資を集め現地にお送りしました。極寒の環境の中、人と動物はどのように過ごしているのか心にシンシンと寒さが積もる思いでした。 現在、国の方針として災害時は動物との同行避難が推奨されています。家族と伴侶動物が共に避難をすることは、家族にも動物にも周囲にも良いということです。しかし、同伴避難(避難所の中で共に過ごす事)が実現できているところは大変少ないのが現実です。

そして、相次いで起きてしまった飛行機の衝突事故。国内線でも昨年から動物の機内搭乗が可能な会社が出てきた矢先ですが、搭乗機からの避難時には動物達と共に避難は出来ません。この事には、世間では様々な意見が出されています。伴侶動物と共に暮らす者の一人として振り返ると、数十年前に比べれば伴侶動物との暮らしについて非常に具体的で細部に至るまで多くの人々の目が向けられ、徐々に「良い方向へ」変わってきていると確信していますが、大変基本的な、極限の状況では家族である伴侶動物と共にいることができない、という事実にはまだまだ改善可能なポイントが多々あると思います。

同伴避難には日頃からの動物達の社会化/しつけ、疾患予防の徹底、不妊、健診、必要な物品の整備、社会全体の理解などが必要です。現地のリーダーの意識、地域の動物病院や動物の家族、動物関連の仕事の人々の意識などが「その時」の状況を変えると思います。伴侶動物は自然界から預かった命であり、私達は命の預かり主です。いざという時の日頃からの様々な準備は私たちの責任ですので、人と動物が共に暮らすことが「双方」が幸せにあるために、日々の準備を万全にしていきたいと思います。また、そのための学びの機会や場の提供を動物病院でもどんどん行っていきたいですね。これからの地球では、更なる災害や感染症も発生するでしょう。どのような時でも、世界のスローガンであるOne Health、One Welfareは、人と動物と地球環境の健全/福祉は1つであることを忘れずに尽力していかなくてはならないと思います。

子猫の時代からクレート(キャリーケース)に慣れ親しみ、安全な場所としてくつろげるように慣らして行く事も大切な社会化の1つです。犬でも猫でもクレートトレーニングが出来ていることは、避難所でもマストスキルとして求められます。

クレートトレーニング、待て、おいでのコマンドで、家族を信じて必ず来る子に育てる。普段からのしつけ、健康診断、寄生虫や感染症予防、不妊などは動物の一生とその健康を守ると共に、いざという時の為の大切な準備でもあります。

profile

柴内晶子先生(獣医師)

赤坂動物病院 院長

伴侶動物医療の現場で、「人と動物の絆」〜Human Animal Bond〜を大切にした診療を行っている。 (公社)日本動物病院協会のアニマルセラピー活動であるCAPPへの参加推進を行い、社会活動として東京青山ロータリークラブでのアニマルセラピー活動を通じた社会奉仕活動を定期的に実施。心の窓をひらく「じっとみて」ワークショップには、未来育ティーチャーとして参加している。 日本大学では、非常勤講師として獣医倫理福祉の講義を行う。 様々な獣医事関連の委員会活動に従事し、日本大学外科学研究室の学部研究生として獣医再生医療にも積極的に取り組んでいる。