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わんだふるな住まいの知識

ペットと暮らす住まいのポイントをケーススタディでご紹介します。

no.89

犬や猫のストレス回避

犬を取り巻く音環境の調査(前編)

犬や猫を取り巻く家庭内の「音」については、「音がストレスにならいために」と題して第33回では「窓編」第34回では「壁編」そして、第43回では「押入とハウス編」でそれぞれ配慮事項などをご紹介してきました。今回は、私が2016年に行った「犬の生活する部屋にある生活音の実態調査」についてご紹介しましょう。

「犬の生活する部屋にある生活音の実態調査」の概要

日常生活の中で、犬の周りにはどのような生活音が発生していているのか、また、何に対して犬は吠えているのかを、獣医大学の介在動物学研究室の学生さんと共同で調べたもので、マンション4軒(6頭)と戸建て2軒(3頭)の犬のいるご家族にご協力頂けました。

犬の主に生活しているお部屋に、精密騒音計とビデオカメラを設置し、記録された音と画像から、生活音と犬の吠えについて分析しました。精密騒音計は犬のベッドやケージの横で、壁などの反射物による影響が少なく、なおかつ、できるだけ犬が聴いている同じ音を採取できるように設置しました。これにより、犬に聞こえている音や犬の吠えた時の音の大きさ(音圧)と周波数などがわかります。ビデオカメラは2台を使い、犬とお部屋全体の様子を動画と音で確認できるように配置しました。色々な状況における犬の反応を見るため、観察日はそれぞれの家庭における生活スタイルの違う日を3日間選んでもらい、24時間で人がいない時間や夜中も記録をしています。

犬の主な生活空間となったお部屋は、どのお宅もリビングでした。協力してくれた犬種は、マンションではトイ・プードルとミニチュア・ダックスフンドといった小型犬に、ウエルッシュ・コーギーやボーダー・コリーといった中型犬でした。戸建てでは、中型の雑種と小型犬のトイ・プードルにダックスフンドでした。家族構成は様々ですが、人は2人以上、犬は単頭だけでなく2頭いたり、猫も一緒に暮らしていたりするご家庭もいらっしゃいました。

犬の声というと、「ワン」や「ク~ン」という様々なものを思い浮かべますが、声音(吠え・鳴き方)の種類というのはレパートリーが豊富です。主な意味合いでは「遊び」「挨拶」「注意の喚起」「警告」「警戒」「寂しさの表現」「防御」などが挙げられます。騒音計では周波数と音の大きさしか判りませんが、ビデオカメラの画像記録を照らし合わせ、大きく吠えたものについて、その状況からどういった種類の「声(吠え)」であるかを分析しました。

犬はどのような音に反応しているのか

この24時間の実態調査からは、人の家庭で暮らす犬の周りには、様々な音が刺激として存在していました。測定は冬で窓を閉めていましたが、家の外部からも音が侵入してきていました。そして、吠える原因は、刺激の音の大きさや周波数だけでは無いことや、犬にとっての関心が高い音は何だったのかも確認できました。図は、戸建てのご家庭のある日の20分間をピックアップして、犬の周りの音とその時の状況を照らし合わせられるようにしたものです。上段に精密騒音計のデーターによる波形グラフが示してあり、下部はビデオカメラの画像記録の情報から得られた人の行動や外部からの音の情報を並べています。家族が犬と共にリビングに集まり、テレビで駅伝観戦しつつ食後の片付けをしている、そんな楽しそうなご家庭団らんの様子が思い浮かびませんか。

▲画像をクリックすると、別ウインドウで画像を大きく表示します。

犬の様子を見ると、ドアの開閉や食器を洗う音、家族の1人がお部屋を動き回っていても気にしていません。ところが、リビングの外の階段(家の中の廊下です)を家族が使う時、登って行くときは反応しないのに、リビングの階に降りてきた時には反応し、大きく長く吠えているのが興味深いなと感じました。

このように、ご家庭内にある「どのような音」に反応しやすく、また犬は「どこに向かって」吠えているかということを、実態情報として確認できました。次回は、この調査で特徴的だった吠えの状況などもお話したいと思います。

参考文献

金巻とも子,他3名:ペット共棲住環境のQOL 改善を目的とした建築技術・システムに関する基礎的検討 その4 犬の居住環境における生活音の24時間測定,日本建築学会大会学術講演梗概集,pp.1461-1462,2016.

profile

金巻先生(一級建築士)

一級建築士・博士(工学)・家庭動物住環境研究家一級建築士事務所 かねまき・こくぼ空間工房 主宰。

犬や猫といった家庭動物(ペット)との暮らしをテーマにした建築設計と、環境コーディネーターとして活動。適正飼養と環境整備に向けた学術研究も進めている。著書に『犬・猫の気持ちで住まいの工夫』(彰国社)、『ねこと暮らす家づくり』(ワニブックス)、など。ペット防災のNPO法人ANICE理事。東京都動物愛護推進員。H25年度日本建築仕上学会学会賞(技術賞)「ペット共棲住空間用の建材に関する研究と技術開発」

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